バイト先のシングルママさんとつきあい始めて、そろそろ半年。
初対面で、相性は最悪だと思ったんだ。
「やめとけばよかった」。
思えば、なんかこう、数限りなく修羅場潜り抜けてきましたって凄みがハンパなかったのに。
やめときゃよかったな。
彼女のお兄さんと、今日初対面した。
といっても、紹介されたとかじゃなくって、バイト先のスーパーにいらっしゃったのだ。
金髪と茶髪の縞模様の虎刈りヘア。
ごつい純金チェーンのブレスとネックレスが漫画のよう。
指には毒々しいドクロの絵柄が光る。
「お兄ちゃんやん!」彼女の口から軽やかにこの言葉が発せられたときは、耳を疑った。
お兄ちゃん?彼女はレディースだったみたいだから、「お兄ちゃん」とは言っても「ぎきょうだい」なのかもしれない。
だが、恐るおそる目を凝らしてみると、彼女ソックリだ。
重たげな一重の目に逆三角形の顔つき。
一度だけ見た、彼女のスッピンの顔に瓜二つだ。
レジカゴの回収作業にあたっていた彼女は、レジ打ちに入っていた僕の方を、顎で示している。
ああ、あれか。
お兄さんが訳知り顔に僕に目をやる。
そして恐ろしいことに、僕に向かって馴れ合いと親しみの混じった笑顔をひとつくれたのだ。
これは恐ろしい。
僕は、まだ彼女とは、その、いわゆる男女の仲にはなっていない。
何度かそれとなく仄めかされはしたが、わからないふりをした。
怯んでいるから。
しかし、お兄さんはその事を「事の是非」を承知してくれているだろうか?。
不安が渦巻く。
指先が震えて、レジ袋をうまく取り出せない。
「一回で」。
笑顔のお客さんがカードを提示しながら差し出した。
いや、一回もしてないって。
言いかけて、僕は我に返った。
「かしこまりました、一回払いで」。