出会いってそうやすやすとは転がっていない。
分かってる。
自分から行動を起こさなくては、何も起きないってことは。
でも、仕事が忙しすぎるのだ。
残業なんて当たり前。
クリスマス前の最繁忙期には、我ながら気を失いそうになる。

華やかに見えた、百貨店。
しかも新宿本社。
やった、と思ったものだ。
メンズアクセサリー売り場という、華やかさに欠ける売り場に配属された時には、ガッカリもしたけど、まあ、最初はこんなもんでしょ。
成果をあげていけば、憧れのブランドとか、レディースの方に移れるだろう。
地道に、こつこつ、頑張るんだ、わたし。
その考えは、甘かった。
まず、先輩がいじわるだ。
いや、意地悪ともちょっと違う。
社歴10年のベテラン主任は子育て中だ。
体が弱いお子さんなのか、子どもってそんなものなのか。
とにかく、よく熱を出しただの、吐いただのと保育所から連絡が入る。
そのたびに主任は「ごめんね。
あとヨロシク」と言い残し、去っていく。
「子ども」という免罪符に、誰が文句言える?いないよね。
と愚痴りだしたのは、同僚の子だ。
勇気あるひとこと。
その穴埋めやツケは、すべて私たちに廻ってくる。
「既得権ってやつよ」酒が回って、ほろ酔いになった舌は、少々ことば遣いも荒くなってる。
「うちの会社、ほら、働く女性を応援する企業って打出してるじゃない?だからよけに強気なのよね。
なんだいって女性客がメインのターゲット層だもん。
つまり、富裕層のオバサンたちよね。
その層に受けるであろう企業カラーを打ち出して、売上を伸ばそうって魂胆よ。
で、そのツケを払うのって誰?あたしたちでしょ!あたしたち、守る家族もいない女子よ!だいたいさぁ」もはや呂律が回ってない。
横のテーブルで、彼女の話をにやにやしながら聞いている男がいる。
仕立てのいいグレーのスーツ。
スマートそのものの体型。
なにかのコマーシャルにでも登場しそう。
「興味あるな、一緒に飲んでいい?」男は話しかけてきた。
やだ、チャンス到来?これって酔っ払いが引き寄せた出会いかしら。
わたしは、緊張を解くために、グイと酎ハイをあおって、答える。
「どうぞ、よろこんで」。