騙そうと思った訳じゃあない。
修羅場を経験したかった訳でもない。
だが、彼女は派遣終了日だった今日、突然家に乗り込んできたのだ。
どうやって知ったのだろう?そういや最近、日記を兼ねてつけている手帳を、職場のお局に拾われたことがあった。

そこには、俺としたことが住所まで記載してあったのだ。
しかし、お局と彼女は犬猿の仲だったはず。
だからこそ、職場でいたたまれない彼女に隙が出来た。
美人でセクシーで、ちょっと影があって。
オトコなら、誰だってちょっかいを出したくなる存在だ。
しかも、妻は今妊娠8か月。
結婚前、先輩からこうアドバイスされたものだ。
「妊娠中になるとだね、君。やたらと浮気したくなるもんだよ、何故かね」。
それに対して、俺の答えはこうだった。
「なんで?ふたりの愛の結晶を待ち望むいちばんいい時期じゃないんすか?先輩はどうだったんすか?」俺の質問には答えずに、先輩は訳知り顔のしたり顔で笑っただけだった。
俺の今回の浮気を知った先輩の反応も同じ顔だった。
「だから言ったろ」その顔は、そう物語っていた。
だから今度は、俺も似た笑い顔を先輩に返した。
おちゃめな照れ笑いだ。
それに彼女だって楽しんだはずだ。
そりゃあ、既婚者だって隠してたことは悪かったかもしれないが。
言いそびれただけだ。
家に乗り込んできた彼女の顔は、般若だった。
「大いに楽しませていただきましたわ、奥様」。
怒りを押し殺した声で妻に告げるオンナの形相ったら。
しかし、さすがの彼女も、妻の8か月の大きくせり出したお腹を前に黙り込んでしまった。
物言わぬ仁王立ちだ。
妻も、みるみる顔色を変えた。
彼女の様子から、はったりでないことが分かったのだろう。
こんな修羅場って。
そこまで悪いことをしたか?俺。

オープンカーで卒業式へ

お姉ちゃんの彼氏は、育ちの良い家柄らしく、素敵な服を着て、かっこいい仕草で私に話しかけてくれます。
妹がいないからと実の妹のように接してくれるのです。
おねえちゃんとも仲が良くって、二人でいっつもいるところを見ると、うまくいってるだなと思うのです。

私の卒業式の日に、袴姿で出かけることにしたのですが、慣れない格好だし着付けに時間がかかってしまいました。
そしたら、真っ赤なオープンカーにのってお姉ちゃんの彼氏が家の前にいて、卒業式会場まで送ってくれるというのです。
卒業式は、武道館であったので、そこまで一気に車で行きました。
しかも、車で行けるぎりぎりまで、行ってくれてぴったりつけてくれたので、目立つことったらありませんでした。
「じゃあね」と言って帰っていくと、すぐに同級生の友達がやってきて、「彼氏?」と聞くのです。
違うと答えると、すっごいねの一言。
でも私は知っていました。
彼はまだ大学院生で、お姉ちゃんは働いているので、昼休みに、おねえちゃんの会社の裏口にあの真っ赤な車で行って、二人で、1時間のランチをするのです。
大体、週に2回ぐらいはそうしてるみたい。
だから、車で送って行って皆から見られることなんて、彼にとっては大したことないのです。
しかし、これを毎回されているおねえちゃんってめだつんだろうな。
先日、その話を聞いてみたら、2回に1回は、少し離れたところで待っていてもらっていたのだそうです。
でも、大切にされていたんだね。