シングルマザーたって、いろんな種類がいる。
まず死に別れ。
これはまあ、きれいだわ。
あたしみたいな喧嘩別れ、しかも10代のヤンキー同志が「できちゃった婚」。
これはまあ、世間は同情してくれない。
そんな時、あの子と出会った。
ある日パート先のスーパーに出勤すると、見慣れないバイト生がレジカゴの回収を必死でやってた。
真剣な横顔。
適当にやりゃいいのに、カゴを掴む手が力んでいる。
「バカバカしい…」。
心の中で毒づいた。
あれは親からも世間からも大切に甘やかされ育ってきた「お坊っちゃん」だ。
いい点数を家に持ち帰れば、猫撫で声の母親が紅茶とおいしいケーキを出してくれた。
努力すれば必ず報われるものだと、世の中を信じて育った。
あたしは、あの子に寄って行った。
「今日から?」。
「はい、ど、どうぞよろしくお願いします。
初めてなんです」。
「ここのバイトが?」。
「いえ、働くのが初めてなんです」。
直立不動だ。
元ヤン時代からつるんでた、鮮魚売り場で働く友だちも、いつも間にか隣に並んで立ってた。
あの子を見てニヤニヤしてる。
こういう「イジリがいのある」人間っているもんだ。
オオカミの牙に怯えない無知な子羊。
「働くのが初めてって?」。
「はい」。
「じゃ、学生さん?」。
「そうです、よろしくお願いします。
いい社会勉強になればと思ってます、よろしくご指導ください」。
ペコリと頭を下げた。
社会勉強ねえ…。
友だちは、気だるそうに相槌を打った。
「はい」。
どこまでも明るくハキハキと答える。
このとき、あたしは悟った。
この子は、あたしの運命の相手だと。
なんもいいことなかったあたしに、神様だかが赤い糸でくるんで寄こした贈り物だって。