こんなショック、初めてだ。
先輩が好きなのはわたしだと思っていた。
噂は本当だったんだ。
確かにあの子は、かわいい。
すべすべの真っ白いお肌が、キャンドルに照らされた横顔なんて、思わず見とれてしまうくらいに綺麗。

しかも性格も面倒見のいい穏やかな癒し系。
間違いなく、宴会サービスのマドンナだろう。
文句のつけようも、ない。
今日、偶然にも見てしまったのだ。
偶然にもそっち系のホテルから、ふたりが手と手を絡み合わせて、仲睦まじく出てきた姿を。
ベタなドラマみたいだった。
本当に、こんなことってあるんだ。
「先輩」。
言葉が先に飛び出す。
わたしの大声にふたりは振り向いた。
ふたりの顔から、さっと血の気が失せる。
「何って…」。
先輩はことばに詰まる。
目に見えてうろたえてる。
彼女には、別につきあっている人がいるのに。
バイト先ではなく、同じ大学の方で。
けっこうイケメンだという。
先輩もイケメンだ。
両手にイケメン!許せない!ひとりくらい分けなさいよ!
思わず声を荒げてしまった。
「なんなんですか!確か学校にもいるんでしょ!カレシが!不潔だわ、ふたまたなんて!」言い募るわたし。
正義、ここにありだ。
彼女は、枯れた花みたいに首をうなだれ萎れている。
そんな彼女に、先輩は愛おしげな労わるような視線を注いでこう言った。
俺たち、正式につきあうことにしたんだ。
その…気の毒だけど、あきらめてもらうんだ、先方に。
今、気持ちが決まったよ。
君の言う通りだ。
良くないよ、こんなの。
ありがとう。
先輩はわたしの目の前で固く固く彼女の手を握りしめた。
ああああ。
ふたりを固めたのは、このわたしだ。