こんなショック、初めてだ。
先輩が好きなのはわたしだと思っていた。
噂は本当だったんだ。
確かにあの子は、かわいい。
すべすべの真っ白いお肌が、ホテルの紺地の制服の上の純白のエプロンに照らされると、見とれてしまうくらい綺麗。
しかも性格も面倒見のいい穏やかな癒し系。
間違いなく、宴会サービスのマドンナだろう。
下手すると主役の花嫁さんをくってしまいかねない。
でも、面白みはゼロ。
話はつまんないわ、特技もないわ、ギャクのネタすらも持ってない。
あたしなんて、常に「ネタ帳」持ち歩いてるってのに。
先輩にも、バイトの疲れを癒してもらおうと、十八番の自虐ネタやらをせっせと披露したってのに、その努力はなにでしたかね?
わたしは決定的場面を今日、見てしまったのだ。
ふたりがすれ違う、その瞬間を。
あんなに気さくな先輩が、久々にシフトに入った彼女に一言も声をかけないのだ。
忙しくコップを運ぶ彼女の、そのひたむきな後ろ姿を見送っている先輩。
彼女が廊下を曲がってその姿が見えなくなってしまうまで、バカみたいに突っ立ってた先輩の後ろ姿。
そうか。
そうだったのか。
なんて、「うましか」(馬鹿)だったのだろう、私は。
先輩にとって私は妹、いや弟みたいなもんだったんだ。
バイトが終わったあと、きっとふたりは待ち合わせたんだろう。
ホテルの隣にある芝生の公園で、暮れなずむ夕暮れにふたりは佇んだんだろう。
華奢な背中とたくましい背中がふたつ、隣り合って並んだんだ。
ショック。
もう立ち直れないかも。
先輩が恋人になっちゃった
週に1、2回仕事の帰りに一人で立ち寄るカウンターバーがあるんですけど、そこで偶然ばったり会社の2年先輩と出くわしました。
一人でバーに寄り道してるところを見られて、なんかちょっと居心地悪いなと思いながらキールを注文しました。
何か話した方がいいかな?どうしよう?と考えをめぐらせていると「お先に!」と言って先輩がお店を出て行ったんです。
もしかして気を使って先にでてったのかな?なんて思いつつ、もう1杯お変わりしてお仕事モードをリセットしました。
会計をお願いすると「先ほどの方が一緒にお会計されましたよ」とマスターが微笑顔で言いました。
なんと気の利く先輩だ!かっこいい!とそれだけで見る目が変わり好きになってしまいました。
翌日お礼を言い、私のお気に入りのお店です!と話したら、僕もあの店好きなんだ・・・というではありませんか。
あれから3ヶ月、ときどきバーで会い今日正式につき合って欲しいと言われ先輩後輩から恋人同士に代わりました。
世の中、何が起こるかわかったものではありません。
全く予期していない事が、事もなげに怒るけですからね。
何かしらのアプローチをすれば、これまた何らかの結果が返ってくるというものです。
モジモジしていた時間を返せと言いたいところではありますが、それは言っても仕方がないことです。
では、バイトです。
花から花へと
私には2歳年下の弟がいます。
弟は雑誌のボーイズコンテストに応募し入賞した経験もあり、学園祭の美男子コンテストでも昨年優勝したほどのルックルの持ち主です。
私も何度か弟のファンの子から、手紙を預かったことがあります。
母は思いっきり勘違いしていて、弟の母親として恥ずかしくないようにお出かけファッションには気が抜けないと言っています。
そんな弟は、実は恋多き男です。
誰もその正体を知らないのですが、姉の私はなんでも知っています。
まさに花から花へと、あまい蜜を探し求める野生児です。
かわいい彼女がいながらも、ちょっと年上のエッチっぽいお姉さんとデートしたり、なんでも尽くすつくしちゃんタイプの女の子とデートしたり、とにかくお盛んです。
それでも彼女だけは特別なようで、5年も付き合っています。
純粋を絵に書いたような可憐な少女なのですが、ああいうタイプが一番怖いような気がします。
弟もそろそろ女癖の悪さを直さないと、痛い目にあうでしょう。