その人は涼しげな白いブラウスを着ていた。
薄い生地から白い下着が透けて見えている。
そして夏の強い日差しを浴びた白い木綿の日傘が、彼女の陶器のような顔を一層白く照らし出す。
なんという麗人だろう。
バス停に立つ中学生の私は、見とれた。
うつむき加減に歩く儚げな姿からは、妖しげな色気すら立ち昇る。
ゆるやかな曲線のスカートは、薄地だけれど黒い色彩のおかげで、かろうじて透けてはいない。
ふと、自分の隣、前に並ぶ男性の姿が目に入った。
彼も彼女に釘付けになっている。
が、私のそれとは目の色が違った。
欲情。
男性はこの辺りにある旅行会社の研修センターに来た社員のようだった。
だから、知り合いに会う可能性も薄いのだろう。
無遠慮にも彼女から一時も視線を外さない。
彼女はバスが来る反対方向から歩いてきたから、男性はいまや体を露骨に後ろ向きに向けている。
つまりは、真後ろの女子中学生であるわたしの方へ。
こうして私は、まじまじと男の様子を観察することができた。
彼は、わなないていた。
まず、呼吸がどんどん荒くなった。
あっという間に平静な肺呼吸は終わりを告げ、強く上下させた胸からの息遣いは激しい。
深い嘆息を腹の底から吐きだし、身をよじってこみあげる何かに必死で堪えている。
その間も、突如理性を奪った女からは片時も目を離さない。
清楚なものほど犯しがたくて、犯しがたいがゆえに抑えきれない欲望が募る。
この式は多分正解だ。
その証拠にさっきまで冷静だったこの男性の、目にも露わなこの失態。
彼の頭の中では、女性はとっくに自分の手にかかっている。
夏のギラつく日差しが眩しく照らす、あの雪のような純白の肌と折れそうに華奢な丸い肩。
ボタンは丁寧にひとつずつ外す?それとも粗っぽくバリバリって破くんだろうか。
男の妄想に寄り添いシンクロしていたその時、突如、自分の下の名前が耳に飛び込んだ。
くだんの女性が、こちらへ向かって手を振って寄ってくる。
女性、それは私の母だったのだ。
いい加減私はメガネを買わねばならない。
男性は言いようのない気まずさで、前に向きなおった。