とにかく、あいつらには負けられない。
僕はこぶしを固く握りしめた。
ラグビー部のあいつらは、彼女を坂の上で待ち伏せしている。
ネクラなクラスメートは、なんと廊下でじっと見つめているらしい。
だから、僕は校門の前にした。
だが、正直彼女のどこがいいのか自分でも分かっていない。
あれは2年の理科の時間。
実験室で同じテーブルになったのだ。
男子2対女子2。
実験器具を共有した僕らは、確か自分たちの皮膚細胞を採取して顕微鏡で見た。
彼女は真剣に顕微鏡を覗きこんでいた。
その瞳を見て、僕は恋に落ちたのだ。
どうしてなんて分からない。
そして驚いたことに、僕と同席だったラグビー野郎もそれは同じだった。
あの顕微鏡に何か仕掛けてあったのか?ヤツも彼女にじっと見入っていた。
魂でも抜き取られたように、彼女のピンクの頬に魅せられ身動きすらできていない。
ごつい体をもぞもぞさせて、初めての恋に戸惑いを隠せてなかったな、あいつ。
そんな僕らに気づきもせず、彼女は淡々とノートに自分の皮膚細胞のスケッチを進める。
「先生」高々と手をあげて教師に質問する彼女。
真面目な彼女は勉強ができる。
この高校に、不本意ながら通っていることは知っている。
そして「偏差値の高い」男をゲットするために受験勉強に燃えていることも。
僕はというと、家でも学校でも四六時中ぼんやりと彼女を想った。
今頃何してるんだろ?受験勉強か。
どんな男と一緒になって、初めての相手はどんなヤツなんだろ?
どうして僕じゃないんだろう?
彼女の運命の赤い糸は、その先っぽは誰と繋がっているんだろう。
多分僕らなんかじゃない。
だから残された時間、ずっとずっと彼女の姿を網膜に焼きつけておこう。