あいつに見られた。
しかもそういった用途のホテルから出てくる現場を。
でも、これでよかったんだ。
ようやくふんぎりがついた。
バイト先のホテルの宴会サービスのマドンナと付き合いだしてから、2か月。
脈のないダジャレ女子のアイツに振り回されていたら、唐突に告白されたのだ。
「好きです、先輩」と、目をうるうるさせて、いきなり抱きついてきたのだ。
そりゃあ、僕だって男だ。
悪い気はしないさ。
彼女の細くて白いうなじが、いじらしく震えている。
オトコ(つまり僕)の胸もとに飛び込んだ乙女の恥じらいからか、耳たぶを紅色に染めている。
どうして、アイツはこういう行動をとってくれない?どうしておちゃらけてばかりなんだ?
そう思いながらも、気がついたら僕は彼女のアタマをなでなでしていた。
それは、懐いてきた猫をなでるような感覚だったのだ。
少なくとも、最初は。
彼女は一緒に歩くとき、腕を蛇のように絡ませてくる。
正直、最初はうっとおしかった。
なぜそこまで密着するのか、疑問だった。
僕だって一応以前にガールフレンドのひとりやふたりは、いた。
でももっと、ライトな感じだったな。
仲良く手と手を繋いで校内を練り歩いて、友だちから冷やかされたり。
実にオープンだった。
ところが、このマドンナさんはやけに秘密主義なのだ。
こういう仲になってしまったとき、やはり男のけじめだから関係各位のみんなに公表しよう。
と僕は提案すると、彼女は大きく首を左右に振った。
理由を問うと、同じ大学につきあっている彼がいるとのことだ。
じゃあ、僕は?そう聞くと、突然大粒の涙を流し始めた。
本当に好きなのは先輩なの。
でも、バイト先ではまだ言いたくない。
余計な詮索はされたくないから。
僕も、それに異論はなかった。
まだアイツには知られたくなかったのだ。
どこかで一縷の可能性を信じている自分がいた。
それが今日、あいつに目撃された。
これでおしまい、だ