きっと、人の物を取って、上手くいく人なんて一握りなんだろう。
でも、私は絶対に負けたくなかった。どんなことがあっても、私だけが苦しむのなら、彼が平気なら、気持ちに正直に生きようと誓って。
あれから彼は、とにかく徐々に話してみるという方法を取った。
私が先輩と同じ会社なことを気遣って、矛先が私に向くことをなんとか避けようとしてくれた。
彼からどうしても好きになったと言ってくれたり、先輩に対してもうほとんど愛情がなかったと痛切な心情を話してくれたり、何とか穏便に先輩が先輩らしく諦めてくれるように持って行こうとしてくれた。
でも、女の執念はすごかった。先輩は、まだ全然彼のことが好きだった。
彼から話をされてすぐに、先輩は私をランチに誘った。
そして、最初は笑顔で他愛もない会話をしていたのだけど、突然、「泥棒!」と水をかけられた。
最初の時から私が色目を使っていた、先輩に隠れて連絡を取っていた、その時点でありえないと罵られた。人の物がそんなに欲しいのかと。
それからそんなことが毎日続くようになった。
先輩なので、誘いは断れない。
でも、必ず最後に嫌味くさく捨て台詞を言われたり、泣いて諦めてくれと頼まれることもあった。
正直、面倒くさいと思うこともなくはなかった。
先輩を通さず出会っていたらと何回も思った。
でも、彼は私が事情を話さなくても、毎日家に様子を見に来てくれ、大丈夫かと心配してくれた。
そして、もっとうまくやれなくてごめんと謝ってくれた。
私はそれだけで十分だった。
いつか先輩がわかってくれるまで、私は耐えるだけだと思った。
彼といれるその幸せな時間は何にも変えられないものだから。