彼女に頼まれたからって、断るべきだった。
僕の額には冷や汗を通り越して脂汗が浮かぶ。
「中学、高校時代僕もバレー部だったんだ」。

なんて嘘、つかなきゃよかった。
話、合わせなきゃよかった。
後悔後にたたず、いや先に立たずだったっけ。

まさかバレー大会の助っ人に呼ばれるとは。
相手チームは小学校のママさんバレーチーム。
ママさんとはいえ、全員がすでにオッサン化している。

そういう僕の彼女もママさんだが。
彼女はシングルマザー。
バイト先のスーパーで知り合い、はや半年。

まだ20代なのに、小学生のお子さんがいる。
僕は彼女らの対戦相手「コミュニティなごみ」のチームの一員となって戦ってる。
エースが突然の体調不良で欠場してしまったのだ。

心筋梗塞らしい。
でも、練習してきたからには、ゲームはしたい。
だから、僕に対戦相手に加わってと、彼女から突如指令がきたのだ。

「えっ」僕は絶句した。
「だって、高校時代までバレー部だったんでしょ?最近じゃん」。
「でも、浪人してる間に腕が鈍ったかも」かぼそく抗議する。

「何、弱気なこと言って。
大丈夫、相手チームは年寄りばっかだから」。
僕めがけて白いボールが剛速球で飛んでくる。

「ぎゃあっ」。
グーに握りしめた両手をデタラメに振り回す。
「何やってんだよ!」味方であるキャプテンから罵声が飛ぶ。

「腰を落して!ちょっとあんた!レシーブの基本も知らねえのかよ!」。
何が老人ばっかだ。
こんなふがいない現場を見られるのなら、遠慮しとくんだった。

勢いに乗ったママさんチームは、僕に集中砲火を浴びせてくる。
彼女も得点するたび、ハイタッチなんかして喜んでいる。
味方チームから舌打ちやらため息やら、非難の色が刻一刻と深まっていく。
地獄、だ。