あの世界的スターのネズミに会いに行きたい、とまたも彼女は言いだした。
もういいだろう。
怒鳴りそうにすら、なる。
「シーズンごとにパレードが変わるのよ。

友だちはもう行ったのよ。
記念の限定グッズとかも、現地でしか買えないものも多いの。
ネットじゃ買えないし、足を運ぶしかないのよ」と、悔しそうに唇を噛む。
かといって、彼女があのネズミだけのマニアかといえば、そうでもないのだ。
彼女はファッション雑誌を定期購読している。
ショッピングが大好きだ。
そういや、この前ネクタイを選んで欲しいと、百貨店につきあってもらったときもそうだった。
メンズのアクセサリー売り場。
彼女は水を得た魚だった。
やっぱりハイブランドは素材が違うとか、メンズにもやはり流行があるとか。
売り子さんと一緒になって、高いブランド品を売りつけようとする。
冗談じゃない。
ネクタイなんて、正直千円も出せば十分なはずだ。
デキる男は、本来服装に金はかけない。
しかし、結局、売り子さんと彼女に俺は押し切られてしまった。
今季限定色だかの、奇抜な緑色のネクタイをお買い上げとなってしまった。
じゃ、ステーショナリー売り場にもつきあってよ。
疲労困憊しながら、俺は言った。
めったに来ない百貨店に折角来たんだ。
最新の万年筆を是非チェックしたいものだ。
すると、彼女は心底忌々しそうな表情になった。
そして、こう言った。
「じゃ、あたしはコスメカウンターに行って、タッチアップしてもらっとく。
今季限定の新色をチェックしなきゃ」と、あっという間に去って行った。
限定色の新色コスメで飾って、相性バツグンなネズミの限定グッズを買いに行くのか。
相性最悪なカレシと一緒に。